沈黙貫けば逃げ切りなのか 佐川宣寿喚問はこの国の分水嶺<上> †なぜ、どのように、誰の指示で行われたのか――。いよいよ2018年3月27日、森友文書が改ざんされた当時、財務省理財局長だった佐川宣寿の証人喚問が衆参両院で行われる。 東京・世田谷区の閑静な住宅街にあるクリーム色の瀟洒な2階建て。2018年3月25日、佐川宣寿の豪邸を訪ねると、窓という窓がカーテンで閉め切られていた。近隣住民によれば、自宅には妻と娘を残したまま。2018年3月9日の長官辞任以降、姿を見かけたことはないという。 「愛犬で焦げ茶色のミニチュアピンシャーの散歩に出かける奥さんを見かけます。上品な印象ですが、常に帽子を目深にかぶって顔を伏せています」(近隣住民) 喚問を間近に控え、佐川宣寿は補佐人を務める弁護士との入念な打ち合わせのため、どこかで缶詰め状態なのだろうか。この間、麻生太郎は改ざんの動機について「佐川宣寿の答弁に合わせるため」と説明し、「最終責任者は佐川宣寿」と断じた。弁護士などのサポート保証を前提に「指示を認めろ」と迫る財務省に対し、刑事訴追を恐れる佐川宣寿が渋っているとも報じられた。 政権側の「佐川宣寿主犯説」を甘受し「刑事訴追の恐れがある」の常套句で核心部分の証言を拒み、政権に恩を売って「第二の人生」の保証を求めるべきか。それとも国民全体の奉仕者である官僚の本分を逸脱した懺悔の気持ちを示し、洗いざらいを打ち明けるべきか。 今ごろ、その葛藤に苦しんでいることだろうが、果たして佐川宣寿にとって沈黙と懺悔のどちらが得なのか。元検事の落合洋司弁護士が言う。 「捜査中の大阪地検特捜部も、証人喚問を注視しています。『訴追の恐れ』の連発は、佐川宣寿がマズイと認識している部分を特捜部に教えるも同然で、そこを聴取で突けば簡単にオチると“敵に塩を送る”ようなもの。また、喚問は佐川宣寿1人が対象ですが、捜査対象の財務省関係者は十数人に及ぶはず。我が身を守るための中途半端な証言は、他の関係者の証言との齟齬が生じて偽証罪のリスクを高めるだけ。『記憶は曖昧ですが』と偽証を回避しながら、ウソも隠し立てもない正直な証言をお勧めします」 もはや佐川宣寿の逮捕は不可避。国民注視の喚問で誠実な態度を取れば、後の裁判で「情状酌量」の余地も生まれる。佐川宣寿は腹をくくって減刑に努めるべきだ。 たとえ、何もしゃべらなくても、この疑獄の追及は終わらない †仮に喚問で佐川宣寿が“完黙”を貫いても、森友疑惑の追及が終わるわけではない。組織ぐるみで公文書を改ざんし、1年間にわたって国民をだましてきた重罪を犯したとはいえ、野党にとって佐川宣寿の喚問はあくまで「全貌解明に向けた入り口」との位置づけだ。 なぜなら、森友疑惑の「本丸」は国有地払い下げの8億円値引きだ。破格の売却交渉の背景に、安倍晋三夫妻の関与はなかったのか。その真相が明らかにならない限り、野党の追及は収まらないし、国民も絶対に納得しない。 そもそも佐川宣寿は森友側との交渉には関わっていないのだ。真相究明には売却交渉時に理財局長だった迫田英典や、安倍昭恵付職員として籠池泰典夫妻と財務省との橋渡し役を演じた谷査恵子、そして安倍晋三夫人の安倍昭恵の証人喚問が不可欠である。 「佐川宣寿が真相究明に寄与できるとすれば、何を守るため、あれだけ断定的にウソをついたのか、改ざん前の決裁書に複数の政治家と共に安倍昭恵がなぜ5回も登場し、なぜ削除したのかを国民に納得できる形で説明することのみです。佐川宣寿の保身のためだけに、理財局が“省益”にもならない改ざんを組織ぐるみで300カ所も行うのは、誰がどう考えても不自然です」(法大名誉教授・五十嵐仁) 佐川宣寿が「訴追の恐れ」を連発すれば、この期に及んで、まだ隠し立てするのかと世論の反発は必至。これ以上、支持率を失いたくなければ、政権側は佐川宣寿に余計なプレッシャーを与えないことだ。 誰が指示したのかよりも官僚が文書を改ざんせざるを得ない安倍晋三恐怖支配の異様 †決裁文書の改ざんは誰の指示で行われたのか。これは、2018年3月27日の証人喚問でも焦点のひとつになるだろう。 大阪地検特捜部の任意の事情聴取に対し、近畿財務局の複数の職員が「本省からの指示があった」という趣旨の説明をしているという。 麻生太郎は「佐川宣寿に責任がある」と言い、政府は改ざん当時の理財局長だった佐川宣寿に全責任を押し付けるつもりだが、重要なのは「誰の指示か」ではない。なぜ、文書改ざんという犯罪行為に官僚が手を染めることになったのか、ではないのか。 「国権の最高機関である国会に対して、財務省がウソの文書を出してきた。異常事態ですよ。この国では今、近代国家としてあり得ないことが起きているのです。国会に提出する公文書の改ざんが、議会制民主主義も三権分立も蹂躙する暴挙だということは、エリート官僚は当然、分かっている。それでも改ざんに走ったのは、森友事案が“安倍晋三案件”だったからであり、出世という見返りもチラついたからでしょう。安倍晋三官邸は、内閣人事局をつくって官僚の幹部人事を握り、無理難題にも従わせてきた。これはもう忖度などという生易しいレベルではなく、恐怖支配によって、日本が安倍晋三独裁国家になってしまったことの表れなのです」 安倍晋三政治の5年間でここまで行政が歪められてしまったかと、戦慄せざるを得ない。 改ざん問題への対応策として、安倍晋三は閣僚や政府職員に公文書の徹底管理を指示したそうだが、どのツラ下げてと言いたくなるし、この問題の本質はそこではない。内閣人事局の制度自体の問題でもない。 歴代保守政権は、まがりなりにも権力の行使には抑制的でなければならないという立場を取ってきた。破廉恥政権が人事権をカサに霞が関を掌握し、国家が私物化された結果、公文書改ざんという、あってはならないことが起きてしまった。これは、この政権の体質の問題なのである。 あらゆる疑獄はゴマカシ、ウソがばれて、追い込まれていく †これまで何が起きても隠蔽とゴマカシ、嘘でフタをし生き延びてきた安倍晋三政権だが、公文書の改ざんがばれた以上、いよいよアウトだ。 全体の奉仕者である公務員を官邸の奉仕者にしてしまった罪深さ。仮に安倍晋三本人は改ざんについて知らなかったとしても、責任を免れるものではない。「私は行政の最高責任者」とエラソーに言ってきたのは誰なのか。 疑獄まみれ政権の崩壊は、得てしてアリの一穴から始まる。 ニクソン元大統領を追い詰めたウォーターゲート事件もそうだった。発端はただの盗聴事件だったが、逮捕された犯人グループの証言によって、司法妨害や証拠隠滅など政権ぐるみの不正が明るみに出て、世論は猛反発。米国史上初めて、大統領が任期中の辞任に追い込まれた。 ロッキード事件も、いわゆる「ハチの一刺し」で潮目が変わった。 田中角栄側が無罪を主張している最中、首相秘書官の妻が東京地裁に出廷して金銭授受を証言し、多くの逮捕者を出す事態に発展した。 森友疑獄も、佐川宣寿の証人喚問は真相解明のスタートでしかない。 「公文書改ざんという犯罪が明らかになり、自殺者まで出たことで、森友疑獄の闇の深さに国民が気づいた。誰もが安倍晋三夫妻が主犯だと感じています。そして、この政府のやることすべてが信じられなくなっている。もはや、安倍晋三がどう挽回しようと思っても、ものを言えば言うほどドツボにはまる末期症状の様相です。米国のドナルド・トランプが、日本を輸入制限から除外しない理由について、『安倍晋三は会うといつもにこやかな笑顔を浮かべるいい友達だが、その笑顔は米国をうまく利用してきたというほくそ笑みだ。そうした日々は終わった』などと厳しい発言をするようになったのも、安倍晋三政権はもう長くないと見限ったからではないでしょうか」(本澤二郎) 驕る安倍晋三を守るための公文書改ざんという決定的な墓穴を掘った政権には、哀れな末路しか残されていない。 |